君に許しのキスを

―side洋平

彼女は語りつづける。
こんなに彼女の声を聞いたのは、初めてだ。



「でもね、よく目を開いて見てみると、世の中にはたくさんの恋人たちがいて、触れ合っては笑いあったり、怒ったり…。
幸せそうに、毎日を過ごしてる。
それが、すごく不思議に思えるの。」



「不思議…って?」

俺は問い掛けた。


「わからないの。
誰かと誰かが、同じ気持ちでいることとか、恋人同士が一緒にいることとか。」


彼女は、まっすぐにさっき恋人たちが進んでいった方を見据えながら、しっかりとした口調で答えた。



俺は少し考えてから、言う。


「人間がさ、常に“正しい人間でいる”って、案外難しいんだよ。」
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