君に許しのキスを
「…え…?」

妃奈は強張った声を上げた。
意味がわからない、とでも言いた気な表情で。
当然の、予想できた反応だ。
俺は彼女に何か声をかけるでも、手を握るでもしてやれば良かったのかも知れない。


だが、何をすることもできなかった。
ただ向かい合う彼女と洋平を眺めるだけだった。



「兄貴は1年前、職場の同僚だった人を強姦して、告訴された。」


「…ごう、かん…?
それって、レ…
凜がされたことと、同じ…ですよね…?」

妃奈が顔を伏せ、小さく震えながら聞いた。
彼女が“レイプ”と口にしなかったのは、事実を受け入れたくないからだろうか。


洋平が頷くと、彼女は口許を噛んだ。


俺はそこでようやく口を開いた。

「相手は晃祐(こうすけ)の、洋平の兄の元恋人だ。
だけどあいつは仕事で上司に裏切られて、その恋人にも裏切られ、別れを迫られた。
それであいつは精神のバランスを崩してしまった。
それで、追い詰められていたんだと思う。」


「だからって!!」

洋平が悲鳴のような声を響かせた。

「だからって、人を傷つけて良いことにはならないんだよ!!」
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