君に許しのキスを
周りの人間は、口々に言った。

「新人なんだから。これくらい仕方ない。」

「何か起こる前に防いで、事なきを得たんだし、問題ないよ。」

「完璧な人間なんていないんだから。」



信頼していた教授の裏切り。
そして周りの励ましの言葉は、それまで一度も挫折したことのない奴のプライドを崩壊させるには、十分すぎるほどだった。


そんな折、奴は同じ病院で看護師をしていた彼女に突然、別れを迫られた。


その理由がその件に関係しているのか、いないのか。
本当のところは、知る由もない。


ただそれが、奴の中でギリギリのところで保っていた何かを、完全に切ってしまったのは確かだ。



一方の俺はと言えば、同じ頃、可もなく不可もないレベルの大学で、何となく教職課程をとり、大学卒業後、教師となった。

心のどかでドラマや漫画のような熱血教師への憧れを抱きながら。

そんな、奴とは違うおおよそ凡人らしい日々をおくっていた。
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