君に許しのキスを
性犯罪の加害者側の証人になり、学校や保護者から何のお咎めも受けない保証はどこにもなかった。
名門と呼ばれるような女子校であれば、なおのことだ。

教師になったばかりの俺には、そんなことは出来なかった。


本人に直接そう告げると、奴は言った。

「ハナっからお前にそんなこと期待してねえよ。」

高校時代、バカ話をしていた時のような笑顔で言うものだから、俺もつい、可笑しくもないのに口角を引きつらせた。

「だからもう、ここへは来んな。
こんな奴とは関わんな。」

そう笑顔のまま言った。
俺も引きつった笑顔のまま言った。

「言われなくてもわかってるよ。
お前本当、馬鹿じゃねえの。」

そう言って俺らは笑った。
いい大人が、可笑しくもないのに、高校生のように。



その日から、俺は奴に会っていない。

俺は、教授や彼女と同じだ。
奴を、大切な友達を、裏切ってしまった。
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