君に許しのキスを

―side洋平

彼女を家に運び終え、自分の馬鹿さ加減に叫びたいほどの気持ちだった。

自分の家に着くまで、何度も発狂しそうになった。


何故彼女に何も言えなかったんだろう。
村西さんの家から彼女の家という短い道中だったことを差し引いても、恥ずかしがるでも、嫌がるでもなく、ただ体を強張らせながらも、無気力に俺の背中に体重を預ける彼女に、俺は何か伝えるべきだった。

母親に心配させまいと、懸命に言い訳を並べる彼女に、俺が何か気の利いた言い訳を加えてやれば良かった。


けれど俺は結局、何一つ言えなかった。

直前の周からの告白で、俺自身の思考も完全に停止していたから、というのは言い訳がましい。

周は兄貴を裏切ってなどいないと、俺は思うから。
事実として、裏切ったとしても、それは兄貴の望みだ。
兄貴の最後の良心だ。

感謝こそすれ、恨んだり憎んだりなど出来るわけない。


それよりも問題は、俺自身にある。

彼女とどう接していいか、わからない。
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