君に許しのキスを
「タコ?
大体いると思うけど、なんでわざわざ?」

「覚えてないの?
あなたがあたしのこと、タコに似てるって言ったんですけど。」


一月前、彼女と水族館に行ったときの記憶が蘇ってきた。
周と村西さんに気を利かせて彼女を誘った水槽。


「ああ、そういえば。
言ったわ。」

「何それ。
人にタコとか言っといて、ひどくない?」

そう言って彼女は俺を一瞬睨みつけ、すぐさま朗らかな笑顔を見せた。
無邪気な、子供のような笑顔。
こんな表情を見せてくれるようになったことが嬉しくて、不意に涙が溢れそうになる。
こんな時は、いつも。



それから俺は、この前とは別の、手近な水族館を見つけた。
そして一週間後、俺達はその水族館へと向かった。

もちろん最初にタコが泳ぐ水槽を見て。
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