君に許しのキスを
「やっぱり、倉嶋さんにも、言ってなかったんですね。」

俺と交代するようにして、今度は村西さんが頭を下げる。

「引っ越し…って、どういうこと?」

「多分、手紙の中に書いてあると思いますけど…凜のお母さんの話では、心の治療、ということらしいです。」

「…心の、治療?」

「記憶が戻ったから、そういうのの治療がしたいって言ったそうです。
性犯罪被害のメンタルケアで有名なカウンセラーを見つけたらしくて、その人の治療を受けるために、って。」


治療?
性犯罪被害の?

凜はやはり、あの日のことで?


頭の中が絶望で支配され、すべての物も音も遠く感じた。

村西さんの口が、何か動いている。
けれど、それはひどく遠くに聞こえ、何を言っているのか認識出来ない。


次の瞬間、身体が揺り動かされた。
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