君に許しのキスを
君からの手紙を読んだ時、すべて見透かされているような気がしました。

兄貴へのコンプレックスとか事件のこととか、何もかも。


兄貴はいつも、何をしても完璧な人で、それに比べて俺は、何をしても中途半端だった。
勉強も、スポーツも、何もかも。
何をしても兄貴には勝てなかった。

だけど、親からも教師からも、常に皆から、「倉嶋晃祐の弟」として見られた。
医学部に進まなかったのも、そういうのが嫌だったからだ。

やっと周りの目から逃れられたと思っていたら、兄貴があの事件を起こした。



俺が何をしても勝てなかった兄貴が、あんなことをした。

それは俺にとって理解出来ないことだった。
だけど、それと同時に、俺には兄貴と同じ血が流れている。
むしろ兄貴よりも劣った人間の俺は、いつ同じようなことをしてもおかしくない、そう思った。


そのせいか、俺はあれ以来兄貴には会っていなかった。
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