君に許しのキスを
「…大丈夫ですよ。
わかってます。」

俺は出来るだけ、力強く彼に言った。
『大丈夫』な根拠なんかなかったが、周にそんなことは言えない。
何を『わかってる』かといえば、微妙なところだ。


「…そうか。わかった。
じゃあまた今度な。」

周は聞こえるか聞こえないか位の小さなため息をつき、電話を切った。

俺も電話を切ると思わず小さく息をつき、軽く目を閉じた。


目を開けると見慣れた、雑然としたアパートの一室。
ふとさっきまでこの部屋で話していた麻衣美のことを思い起こした。
何度も麻衣美と笑いあった、この部屋で。


─ごめん、
…ごめん…─

それだけをただ繰り返していた、麻衣美を。
< 52 / 301 >

この作品をシェア

pagetop