君に許しのキスを
それを周に言うことはできない。
してはいけない、となんとなく思っている。



実際、この“サシノミ”は何度か行われているが、他愛もない話ばかりだ。


お互い、何か相談することもない。
重大な話もない。



例えば俺も、麻衣美のことは周に一切話していない。
向こうが何か、女の話をしてくることもない。



まあ、男同士なんてそんなものなのかもしれないが。



単純に、「最近どうだ」、「まあまあやってる」、そんな感じだ。


今日だって、もちろん変わらない。



「最近、大学のほうはどうだ。」


居酒屋で席に案内され、
腰掛けた瞬間に、
周がお約束の言葉を投げかけてくる。


「一応、ちゃんとやってます。」

嘘だけど。


「そうか。」


そういって俺の嘘に気付いているのか、いないのか、受け流すように、あるいはすべて包み込んでしまうように微笑む。
これもいつもの周だ。

すぐにふっと、どこかへ目をそらすのも。



しかし、この日はそれからが違った。


“いつもの周”ではなかった。
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