君に許しのキスを

―side妃奈

あたしは動揺しながらも、心が休まるような、居心地の良さを感じていた。

彼の腕の中にいる、というだけで、とても安心する。

涙がひとつ、ふたつと流れても、ここに居られれば、不思議と気にならない。


そう思って目を閉じた。


思い返せば、ほんの少し前まで、すごく嫌な奴だと思っていたのに。


あの唇の温かさが、この腕の温かさが、あたしの凍った心を溶かしてくれている。


彼の少し固い胸に、あたしの鼻が当たっていて、その胸から、優しくて温かくて、少し汗の混じった匂いが、あたしの鼻に届く。


男の人の匂い……



ハッと目を開けた。

あたしの脳裏に、一人の女の子がよぎった。
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