ヤクザと執事と私 1
「かわいい尾行者がいるのには気づいていたが、少年、こんな老人に何のようかね?」
「・・・」
真木ヒナタは答えることが出来なかった。
思いのほか強く、首に杖を押し付けられていることもあるが、焦っていたおかげで、ひったくりの対象を間違えたことを悔いていたからだった。
(何で俺は、男をひったくりの対象に選んでしまったんだろう・・・)
この地は、もともと治安がいい場所でない上に、元軍人が嫌というほどいる。
だから、男を対象から避けていたのに、老人というだけで安心してしまった。
真木ヒナタは、後悔で唇をかみしめる。
「ふむ・・・話したくないというわけか。さて、どうしたものか・・・」
ここにきて、真木ヒナタは恐怖を覚え始めた。
この辺りでストリートチルドレン1人の死体が発見されようが、誰も気にはしない。
むしろ、ゴミが減った程度にしかみない。
ただ、まだ、殺されるだけならまだいい方で、最悪の場合は、生きたまま内臓などの商品となる箇所を取られて、死ぬよりつらい目をさせられた上で殺されてしまう。
裕福な老人、このことも今になって真木ヒナタが焦る理由のひとつだった。
この辺りで裕福な老人、しかも、治安の悪い裏路地を気にせず入っていけるとなると、思い当たることはただひとつ。
マフィア
この土地では、国家権力よりも絶対の権力を有している者達。