ヤクザと執事と私 1
真木ヒナタに出来ることは、覚悟を決めることだけ。
真木ヒナタは、目をつぶって、記憶の中の仲間に心の中で(お兄ちゃん、しくじっちゃったよ。ごめんな。)というと、ゆっくり目を開けた。
「少年、目をつぶっていたが、神にでも祈っていたのかな?」
興味深そうに老人が、真木ヒナタに聞いた。
その老人の言葉に初めて真木ヒナタが答えた。
「・・・この世に神はいない。・・・たとえいたとしても、俺は信じないし、祈りもささげない。」
真木ヒナタの置かれた状況からすれば、当然の回答だった。
真木ヒナタたちストリートチルドレンの現状を救おうとしない神にどんな祈りをささげろというのだろうか。
「それでは、どうして目をつぶったのかね?」
「・・・謝っただけだ。」
「何に?」
「・・・守るべきものに。」
老人は真木ヒナタの回答を聞いて、一瞬、呆然としたが、すぐに笑い始めた。
「これは傑作だ。少年のようなゴミのような存在に、おのれ以外に守るべきものがあるとは。」
「・・・笑いたければ笑えばいい。」
真木ヒナタは、笑い続ける老人を睨みつける。
それが、真木ヒナタが今できるせめてもの反抗だった。
老人はしばらく笑い続けていたが、急に笑うのをやめて、セカンドバックから財布を取り出すと、真木ヒナタに数枚の札を渡した。
「・・・何のつもりだよ。」
老人の意図がわからずに、真木ヒナタは受け取らない。