ヤクザと執事と私 1
「なんだ。これが欲しかったんじゃないのか?」
不気味なほど何を考えているのかわからない老人の表情。
しかし、これを受け取ろうが受け取るまいが、真木ヒナタの覚悟は決まっている。
それならば、どんな罠だろうが、受け取った方がまし。
真木ヒナタは、ゆっくりと老人が差し出した数枚の札を受け取った。
「そうそう、子供は素直が一番。」
老人は、もう一度、セカンドバックに手を入れると、今度は一枚の名刺のような紙を取り出し、真木ヒナタに渡した。
名刺には、店の名前と住所が書いてあった。
「何だよ、これは?」
「・・・もし、その渡した金を使い終わっても、まだ、今の少年の覚悟が続いているようなら、その店にわしを訪ねてきなさい。・・・仕事を紹介してやろう。」
「・・・仕事?」
「ああ、ただ、覚悟があって初めてできる仕事だよ。」
それだけ言い終えると、老人は、もう真木ヒナタには興味ないという様子で、一度も振り返らずに歩いていってしまった。
残された真木ヒナタは、しばらく呆然と立っていたが、そのまま、そこに立っていても仕方ないので、老人から貰った金を大事に抱えて、家であるマンホールへと帰っていった。