ヤクザと執事と私 1
少し龍一と呼ばれた執事が考え込む。
「やくざになりたいわけではないのですよね?」
執事はハルさんに話しかける。
「そうなんだよ。毎日、簡単なバイトがないかと思って・・・この子、天涯孤独でさ、働かないと毎日食べていけないんだよ。」
ハルさんはさらに必死に執事に頼み込む。
「そうでしたか。それでしたら、従僕でしたら、不足しておりますので、すぐにお雇いできますが?」
「従僕ってなんだい?」
ハルさんが難しそうな顔で執事に尋ねる。
「簡単にいうと私、執事の見習いのようなものです。・・・この家は数だけは大勢の人間がいるのですが、細かなところに気が利く人間が少ないですので。」
執事は困ったような顔を浮かべる。
「そうだろうね。やくざに気が利くことを求めても無理だろうね。」
ハルさんは納得とばかりに腕を組み、頭を何度も振る。
「どうでしょう?私の見習いというような感じですが、やってみますか?もちろん、給料もきちんと払わせていただきます。」
執事がその彫刻のような顔に天使の笑顔を浮かべて私を見つめる。
(・・・かっこいい・・・)
私は、心の奥底からチョコレートのようにとろけた。
ハルさんが私のわき腹を軽く叩く。
私は現実に引き戻された。
「・・・・はい。やります。是非、やらせてください。」
こうして、私は、やくざの家で執事の見習いとして働くことになった。