ヤクザと執事と私 1
「それくらいでいいだろ、龍一?」
そこで初めて笹山大和組長が執事に声をかけた。
瞬時に左手を離す執事。
私は、執事の左腕にぶら下がったままだ。
執事は、左腕にぶら下がった私を、ゆっくりと床に降ろし、一瞬だけ私に微笑む。
そして、笹山大和組長の方を向くと、
「お騒がせ致しまして申し訳ございません。」
と、深く頭を下げる。
「あっ?別に面白かったからいいよ。みんな、さっさと食えよ。」
笹山大和組長は、執事の謝罪には興味なさそうに見向きもしない。
笹山大和組長の一言で、まるで何もなかったように、場は元通りになっている。
「小夜さん、それでは仕事に戻りましょう。」
執事の周りの空気も元に戻っている。
「はい。かしこまりました。」
私は、最初と同じように元の壁際に戻っていった。
それからは特にトラブルもなく、食事の時間が終わった。