ヤクザと執事と私 1
考えるよりも早く、少年の両手を掴むと、合気道の技で投げ飛ばした・・・はずだったが、少年は、最初から立っていた位置から少しも動いていなかった。
「合気道かぁ~・・・なかなかの腕前だね。」
少年は何もなかったかのように私に話しかける。
そして、サブを見ると、「確かに胸もないし、あれだけの合気道もおさめているんなら、男か。」と納得した表情を向けている。
サブは、少しあせったように、「そうなんですよ。まだ、入ったばかりなんですけど。」と暗に私の無礼をフォローしてくれていた。
再び少年は私の方を見ると、「名前は?」と尋ねた。
「・・・三河・・・小夜です。」
私は、なぜ投げることが出来なかったのか疑問に思いながら答えた。
「小夜か・・・いい名前だね。」
少年は、最初に会った時のような笑顔を作り、私に笑いかける。
「僕は、真木ヒナタ。・・・こうみえても立派な男さ。」
そう言って、再びズボンを膝まで下ろした。
私とサブは、さすがに2度目だと、この露出狂の少年をあきれた目で見つめていた。
真木ヒナタは、2人の冷静な目で見られていることが面白くなかったのか、少し悔しそうに後ろを向くと静かにズボンをはきなおした。
それから、真木ヒナタはサブにも、「アイス買ってこいよ!」というと、小声で面白くないとつぶやきながら屋敷の中に戻っていった。
サブは、真木ヒナタが屋敷の中に見えなくなるまで、頭を下げていたが、屋敷の中に見えなくなると、大きく深呼吸をして顔を上げた。
「あせったなぁ~・・・」
サブの顔に冷や汗が浮かんでいるのが、サブのあせりを私にもわからせてくれた。