魑魅魍魎の菊
「う、うぅ…市太郎様。妾を置いて、が、外国に…」
「神影様、気をしっかりお持ちになって…」
「市太郎様ァァ——!!」
「正影、打開策はあるのか?」
「あると言えばある。…だが、」
不意に苦虫を噛んだような顔になってしまう。
「だが?」
「あまりにもリスクを伴う」
俺がそう言えば、千影も眉間に皺を寄せるのだ。
「千影、お前…今回の百鬼夜行の頭がどんな奴か解るか」
「…目星はついていないが、一度だけ感じ取った"殺気"と鏡子のデータを参照すれば何とか見つけられると思う」
時間もリスクもかかる。
だが、"家族"を守る為ならこの身がどうなっても構わない。
「1日、儂に時間をくれ」
翡翠色の瞳が揺らめく。
「決行は明日の丑三つ時だ」
正影の声が波紋し、多くの妖怪と付喪神の「御意」という声が遥か遠くから聞こえたような気がしたのだ。