魑魅魍魎の菊
…時はいつしか黄昏時になってしまった。
正影は溜め息をつきながら、またもや自転車を漕ぐのだった。…爽やかな風を感じたいところなのだが、お喋りな幽霊が背後に居るせいでそんなことも静かに感じられない。
「……玖珂っち、本当に女の子に人気だねー」
「知らねぇーよ。そんな見てくれだけしか見ていない女なんて」
「ちょっ?!容姿重要みたいなこと言ったの君だよね?!」
「知らん。忘れた」
俺は過去を省みない性格だ。
…駐輪場に行けば、部活で走り込みをしている女子生徒やら窓から見つめて来る生徒、——全員見てくれしか見ていないだけだろ。
「複雑だね、玖珂っち。…モテる男にはそんな悩みがあるんだね」
「お前に解ってたまるか。どうせ俺が《見えない何か》が見えることを告白するば気味がるのも一目瞭然だ」
「そういうものかな…?俺は一種のオプションとしか思えないね」
自転車から見える風景。数多くの物の怪達が俺に挨拶をしてくれる。
この地で生まれ、育った俺は守る義務があるのだ。…加藤の横顔を見てみれば、黄昏れに染まって少しだけ格好良く見えた。
(みんな"家族"なんだ……)
「俺の中じゃ超能力者も逆上がりが得意な男の子や絵が得意な女の子と一緒だよ。玖珂っちの"力"もそういうのと一緒」
「ケッ……規模が違ェよ」
「物は考えようだってこと」
加藤が笑った瞬間だった——
(——闇に、葬ってやる)
全身の神経が研ぎすまされるような、鋭い視線を感じた。
「っ…加藤、」
「どうしたの玖珂っち?急に立ち止まって…」
どうやら加藤は気がついていないらしい。俺は何でもないと呟いてまた走り出したのだった。