魑魅魍魎の菊
(あれは…)
ふと校門の所を見れば、《玖珂の若頭》が自転車に乗って登場してきた。
「あっれー?一年の《玖珂 正影》君じゃないの?」
「栄子、知ってるの?」
「そういう菊花は知らないの?玖珂君って今一年で一二を争う程の男前だよ。何てたって、あのクールな感じで物静かじゃない?無愛想だけど笑顔はキラースマイルという、素晴らしいギャップの持ち主!!」
えっ——物静か?!
思わずロリポップを噛み砕きそうになってしまったが、彼は熱い男だと思うな…鏡の子を滅しようとした時の感情、表情。
感情に熱い人だと私は思うんだけど……そして、クールではなく神経を研ぎすましているだけかと。
ぼんやりと思うが、背後に加藤さんが乗せている限り…困った人をほっとけないんだと思うんだよね…。
菊花は薄く笑みを浮かべながら、暫く正影を見つめていたのだ。利枝と栄子が最近流行のアイドルグループの話に切り替わったのを尻目に私は自分の席に戻る。
「あっ、高村おはよう」
「おはよう植木君。朝練お疲れさま」
「あぁ」
短く植木君と言葉を交わし、最初の授業の準備をする。植木君は今日も汗をかいているのに何処か爽やかで凛々しいぞ。
「…なぁ高村」
「んー?」
「お前さ、その包帯っていつ取れるの?——ただ階段から落ちただけじゃ、そんな風にならねぇだろう?」
一瞬だけ、体が震えたが気のせいだと感じたい。…ったく、良い男ってどうしてこう何しても良い男なんだろうかね。
「さぁーねー。私に回復魔法さえ使えれば、今すぐHPが1万ぐらい回復してるよ」
「範囲広っ。そうだ高村、最近駅前辺りで変質者がいるらしいから気をつけろよ?」
「植木君、大丈夫だよ。誰が好き好んで私なんか狙うのよー」
キャハハっと笑って茶化せば、目の前に刑部君が現れた。
「そーだよ植ちゃん。高村なら何か夜の闇に飲まれるから」
「オイオイオイオイ……。そういうのはせめて本人が居ない所で言おうよ」
つくづく《友達》って何なんだろうと思う私ってどうよ。
(みんな結構容赦ない)