魑魅魍魎の菊
加藤は店内に浮遊しながら、店員の姿を懐かしんでいるのか涙目でだ。俺は俺で本屋の中を軽く見渡しながら観察する。
人の通りが多いせいか、それなりに《目に見えないもの》も潜んでいることが気配で感じられるのだ。
俺が書店の角を曲がると……そこには、先日俺に告白をしてきた先輩が居た——
「…く、玖珂……君っ…」
「…ちわ…」
"小泉"先輩はサっと視線を反らしながら、楽譜雑誌をギュっと抱きしめるのであった。
そりゃあ…「生理的に無理」という振られ方したら誰でも嫌だろう。ていうか、普通の女の子のように薄く化粧をして巻かれた髪がなんとも可愛らしい。
あの"地味女"も少しは見習えと思いながら、視線を後ろの方に向ければ……あの地味女はいかにも他人の振りをしながら「拷問の全て」とか恐ろしい本を読んでいた。
俺…あんな奴と知り合いと思われたくない。寧ろ他人だ、そうだ他人だ。後ろで浮遊している加藤でさえ顔を青ざめている。(いや元々だが)
「吹奏楽の楽譜ですか?」
「へっ?!…そ、そうだよ……しゅ、趣味でね…」
顔を真っ赤に赤らめている限り、女の子らしいな…とぼんやりと思いながら俺はその場を後にしたのだった。
*
等々日が暮れたのか駅前のコンビニでジュースとウインナーを買った玖珂君。——それと手持ち無沙汰な私は駅の裏道を歩いていた。
「あーあー、良い男ってぶっきらぼうでも格好良いから嫌になるね高村さん!!」
「それを私に求めるんですか、そうですか…。……ていうか、玖珂君も何か他に話題無かったわけ?」
「俺にどうしろって言うンだよ。——つーか"拷問の全て"とか恐ろしいもんを読んでいたおめーよりよっぽど正常な思考はしてるっつうの」
「いやいやいや…偶々惹かれるもんがあって」
「あってたまるか。その情報で現代社会を生き抜けるとは到底思えねぇよ」
まぁ…確かに現代社会は生き抜けないけど、脅しぐらいはできるかと。