魑魅魍魎の菊
「オイ…どういうことだよ、高村」
「……噂で聞いたのよ、雛先輩は大分前からストーカー被害に遭っていたらしくて。ここ最近もこの駅付近で変質者が出たっていうのを聞いたのよ」
「じゃ、じゃあ雛ちゃんまた?!」
どうやら、加藤さんは先輩が変な男につきまとっているのを一度だけ目撃したらしい。
そして、この付近で先輩に気付かれないように見様見真似で又刈りをした所見事に"その男"を倒したというのだ。
「加藤の武勇伝はどうでも良いが——その後、」
私は一瞬だけ、"何かの残像"が見えたのだ。
「その後…男を追いかけて、ここまで来たら——俺の注意散漫なのかな、轢かれちゃった」
笑顔で言う加藤さんをぶん殴りたかったが、生憎霊体なので触れられない。
「玖珂君……"嫌な視線"を感じるのは気のせいかしら」
菊花は鞄を投げ捨て、水晶の数珠を右手に掛ける。そして、姿勢を低して構えをとるのだ。
「どうやら——それは気のせいじゃないらしい。ここは共同接戦だ」
正影は懐から《鳳》と札を出し、構えるのだ。
先ほどから感じていた"視線"と微力な"殺気"。
「ちょちょちょ、ちょっと二人共どうかしたの?!」
「…加藤さん、ちょっとこれは厄介なことになってきた」
「——高村、来るぞ」
その瞬間、闇の向こう側からおどろおどろしい——怨霊が現れて来たのだった。
暗い暗い、狂気を帯びた魂——存在。
(殺戮と狂気…)
(こんなのは仕事に入ってねぇぞコノヤロー)
縁結びじゃなくて、ただの妖怪退治だろうが。