魑魅魍魎の菊
「——ら、——む、た…」
あぁ…。今日も眠たいし、幻聴とか聞こえそうな勢いだ。
「き、…む……た」
「高村菊花ァァ!!!俺の話を聞こうよ?!」
「……?」
突然目の前で叫ばれたので、首を傾げてしまった。
今、私の名前を呼んだのは同じクラスで野球部の刑部君だ。
「ゴメンね刑部君…。てっきり、私幻聴と幻かと…」
「何それ?!俺の労力と心を返してくれません?!」
「おいおい刑部。高村、キョトンとしているから少し落ち着け」
そして、隣から仲裁役(?)をしてくれたのが隣の席の植木君。これまた野球部で青春してますって感じの良い人だ。
「植ちゃんはそうやって高村を甘やかす——!」
「甘やかしてなんかないし。刑部がうっさいだけ」
「そんなことはどうでも良いから、刑部君私に何か用?」
「(ど、どうでも?!)……い、いや。お前、ボケ〜っとしていたから体調悪いと思っただけだ」
何でこの娘、人の呼びかけを幻聴と間違えるのか…という刑部の悲しき心をスルーしたところで植木は菊花に何かを渡した。
「ロロポップ?」
「ロリポップね高村。甘いもの食べて、少し集中しようぜ?次はスッゲー眠い物理だから」
「雑なボケ…。そうだ高村、そしたらその瞳も煌めくんじゃネェか?」
私は植木君から貰ったロロ…ロリポップの封を切って、口の中に入れる。ふと、甘いいちご味が広がる。
「ハイハイ、ソーデスカ」
「雑な対応!俺、お前に何かしたか?!」
今日も教室は騒がしくて、でもどこか楽しくて。
友達と過ごす時間は素直に掛替えの無い時間だって思えるのです。
理だとか、摂理とか…
そういうのじゃなくて、本当に美しいって思える。
この世界は美しいのです。——それを見る目さえ持っていればね。
例え、隣の席に居る植木君の首を絞めようとしている「目に見えない」何かが私に見えてもだ。