魑魅魍魎の菊
菊花は大分弱っている大蛇のサイズを妖力で調節して2メートルぐらいのサイズにした。
それを体に巻き付けて、よっこらせと立ち上がる。……明らかに自分だって弱っているくせに。
「——付喪神は長年大事にされてきた物だ。それを大切に扱っていた人間を侮辱する気か」
「別に付喪神自体を侮辱してないよ?私は自分が"神聖"だ、"正義の味方"よ?とか豪語している"馬鹿"みてるとね——どうしても殺したい衝動にかられるの」
危ない、そう思った龍星は一歩後ずさった。何度も不良やチンピラとの喧嘩をしたことがある俺でも——こんなに危ない状況は初めてだ。
だが、玖珂を見捨ててここは逃げられない。逃げちゃだめだと思った。それに……あの子の行方も心配だ。
(クソッ——…可愛かったな、畜生)
「自分のしている残虐行為を正当化している奴等って、つくづく面白くない。似てるよね?
——"人間"と」
肝が冷える感覚に襲われた千影だが、この女の言っていることは正しい。やれ文明だ、やれ戦争だと…人間はそう言い続け、森を切り開き、罪も無い動物や人間を…
自分たちの利益にならないものを次々と殺して行った。何千年を生きて来た千影に言い返す術は無かった。
何より的を得ている。この世に正論に勝るものなどない。
「——来い、小娘。案内してやる」
「ち、千影様?!」
「黙っていろ鏡子」
満足そうに笑った菊花はだらりと左腕を下げながら歩き出す。そしてひたらす謝り続けた…
(玖珂君、悪かったわね)
——君を傷つけたくなかったんだ。
あんまり綺麗だから、さ。