魑魅魍魎の菊
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菊花の額から血が流れた。……子狐の善狐が私に石を投げたのであろう。だが、彼女は顔色一つ変えずに正座に座り続けた。
背後からも罵詈雑言、そう言われても仕方無い言葉を投げかけられる。
現在菊花は若頭の正影を抜いた玖珂家の者で総会を開いていた。上座に当主の市太郎が座った途端…
水を打ったように静まり返る間。……この人から発せられる気はただ者ではない、人の上に立てるからこそ発せられるもの。
(…このアウェイな状況で踏ん張るんだ、私)
私の着物は血で濡れて、とても着られる状態になくなった為…傷の手当ての後、玖珂君のお姉さんである「春菜」さんから衣服を借りた。
白いワイシャツにジーンズ。……いやはや、ブラジャーまでサイズがピッタリだから驚いたよジェイソン。
左肩から殆ど使い物にはなっていなかったので、現在はサポーターで左腕を固定してある。
そして、上座に座る市太郎さんと真っ正面に座る私。……武器も何も持っていない状態だけど、自分の"心"に負けたくないんだ。
証人なのであろう萩谷君は初めて見る大量の物の怪に顔を引きつらせているが、隣に座っている春菜さんに宥められている。
「先日の百鬼夜行……大変申し訳御座いませんでした」
私は深々と土下座する。多くの物の怪のひそひそと喋る声が煩わしい。…正直言って、お前達が私と戦っても勝てないわよ。
そして、後ろを向けば。夥しい数の物の怪がこちらを睨んでおり、私は圧力に負けそうになる…だが、菊花は勢いよく頭を下げ、
「一百鬼夜行の頭として!先日の百鬼夜行……誠に申し訳御座いませんでした!! 許しを請おうとは思いません、純粋な気持ちで後悔しております!!」
「だ、……だったら何で私を狙ったんだ!!」
菊花は畳に額をつけているので、鏡子の表情なんて解らないけれど…きっと泣いているに違いないであろう。