魑魅魍魎の菊



玖珂さんの瞳が大きく見開かれて、視線は蛇の子に移る。名も無い、蛇の子。


「——母の沼御前を亡くしてから、この子はずっと一人で生きて来たようです」




誰にも頼れず。蛇の妖怪というだけで、とても永い時間を一人で過ごしてしまったのだ。


彼女は福島の綺麗な湖で過ごして来た。偉大な沼沢火山があり、それは伸び伸びと育って行くはずだった——…





彼女は母が殺されてから、"人間"を憎み恐れていた。恐ろしい武器を持ち、偉大な森を切り開き…

棲む場所を追われた。だが、彼女は蛇の妖怪という理由だけで…森の動物にすら迫害を受けたのだ。


どうして仲間同士で争わなければならない。今まで母がこの地を守っていたのにどうして。


どうして——






みんな、離れて行くのだと。



永き時が経ち、彼女は決めたのだ。何百年も考え、罵られ、人間達に生け捕りにされてようやく決めた。



(——人間と共存しよう)



それは苦渋の決断であった。小娘の自分が強大な文明を持ってしまった人間に勝てるはずがない。

だからこそ、能力である擬人化でどうにかなると…




その考えは浅はかだった。魑魅魍魎の主・菊花を頼って人間のところに出てこえば——




いきなり、人間に囲まれてしまったらしい。

本当は人間など食べないし、襲わないと心に決めていたのに…


それなのに、"本能"が"防衛"が働いたのだ。


 

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