魑魅魍魎の菊
そう——とても永い時間、彼女は全てに恐れながら暗い、暗い洞窟の中で暮らしていた。
「ですから——彼女を滅さないであげてください玖珂さん。…この子はただ、生きたかっただけなんです」
蛇の子も痛む首を頑張ってあげながら、龍星を見つめるのだ。——そして、流れるのは一筋の涙。
「…っ……お、オイ…コイツ何か」
菊花は蛇の子に耳を寄せて、声を聞き取る。そして殆ど体力が無いのにも関わらず妖力を流し込むのだ。
「"恐い人から助けてくれてありがとう。そして食べようとしてごめんなさい。……あんなに人間の人から優しくしてもらったの初めてだったんです。——だからてっきり……この人も私を殺すんじゃないかって、疑って…襲ってしまってごめんなさい"」
シャーシャーとしか聞き取れないが、あの地味女が翻訳してくれている。……永い時間、誰にも優しくされていなかったから…優しさを忘れてしまっていたんだろう。
「…なぁ、泣くなよ?俺が悪い奴みたいじゃないか」
「実際不良でしょ…」
鋭い眼光で睨む龍星。
「あ"ぁ?」
「えっと…"リュウセイは悪くない、悪いのは食べようとした私"」
「ハッ、俺喰わなくて正解だぜ?俺、マズいからな」
龍星は笑いながら蛇の頭を撫でて上げた。さっきまでトラウマになる勢いで嫌だったのにな……
"同情"、そんな綺麗なもんじゃないけれど。どうしてだか、何かしてやりたいと思ってしまう自分が居た。
「解ったよ高村さん。この件は無かった事にしちゃおうか」
円満の笑みを零す玖珂さんに私と蛇の子は深々と頭を下げたのだ。