魑魅魍魎の菊
「俺が、名前付けても良いか?」
「うん」
何百年も一度も呼ばれることの無かった"名前"。
その感覚に憧れた少女は青年の茶色の瞳をジッと見つめていた。菊花様が仰っていた、誰かとお話をするときはその人の目をしっかり見なさいって…
「美鈴。——美しい、鈴で"美鈴"だ」
「み……すず?」
「そうだ、美鈴。今日からお前の名前は"美鈴"だ」
朧げに呟いていた"美鈴"は嬉しそうな顔をしながら、とびきりの笑顔で笑ってくれたんだ。
——あぁ、良いな…
そう思ってしまう自分が居た。ここにあの女が居たら、一生笑いのネタにされそうだがスルーだスルー。忘れろ自分。
「リュ、リュウセイ!も、もう一回呼んで!」
「何度だって呼んでやるよ。美鈴、美鈴、美鈴」
そう呼べば、嬉しそうに笑って俺の首に腕を回してくるのだ。優しい香りがして…
この子は本当に寂しかっただけなんだと、人間が恐かっただけなんだと思うんだ。
「なぁ——…美鈴」
「どうしたのリュウセイ?」
「俺と、一緒に住まないか?」
「えっ?」
朝日から伸びる影がいやに疼いたような気がしたんだ。
「良いの…?美鈴…一緒に住んでも良いの?」