魑魅魍魎の菊
「で、高村菊花。おめーは何の競技に出るんだ?暇だったら見に行ってやっても良いぞ」
「フルネーム且つ上から目線はスルーするけど。私はドッヂボールよ?だからここで涼ましてもらうわね」
「「地味な競技じゃなかった…」」
——ピクッ…
「どうでも良い所で声を合わせるな!」
と、その瞬間——とても強い風が吹いたのだ。怒り、悲しみ…そんな感情を含んだような風。
まるで天狗の風みたいとそう思ったが、玖珂君と萩谷君は「おぉ、良い風だな!」と喜んでいただけなので…私の気のせいだと感じた。
——何だろ、胸がザワリとするような奇妙な温度差を持った風は。
菊花は青い空を見つめながら、瞳を細めるのだ。——何かを訴えるような風だね。まるで、あの"少年"みたいだと思ってしまう——…
何かを忘れているような気がするんだ。——どれも大切なことなのに。
正影は神妙な面持ちをする菊花の頭を小さく小突いた。
「お前こそ情けねぇ顔すんなっつうの」
別に心配でも胸騒ぎでもネェよ。そんな顔させるのが"何かが"嫌だっただけなん。
「ん?別に何でもないわ」
そうやって、いつも影を含んだ顔をしているから。何か良からぬものが絡んでいるような気がすんだよ…。
「玖珂っち——!!」
この声を聞いた瞬間に俺の溜め息が出たのは言うまでもない。