魑魅魍魎の菊
龍星のボールが投げられた瞬間——
「この前美鈴ちゃんが"正影様、格好良い大好きってです♪"って言ってたぞー」
——カクンッ
信じられない言葉に龍星の手から零れ落ちるボールを素早く拾った正影はすかさず、ボールをぶち込んだのだ!
「…な"っ…何ィィィィ!!??」
龍星は真っ青な顔をしながら、力なく座り込む。目の前に正影がスッと立つのだ。影が濃くて、思わず高村を彷彿させる。
「ダーハッハッハッ!!!やっと崩れたな萩谷!」
「ひひひ、卑怯だぞテメェ!!!」
「勝ってなんぼだ!戦いに私情を持ち込む奴が身を滅ぼすんだよ!!」
——はっ?
一瞬だけ動きを止めた俺。…何を、言っているんだ俺は…。
まるで……"魑魅魍魎の主"と一戦を交えた時の"俺自身"を否定したような言い方は何だよ。
違う。俺は……そんな身勝手な人間じゃないはずだろ。確かに血の気が多いと理解しているが、そんな"感情"を否定したような…。
一瞬だけ、血の気が引いたような気がした。
「つーか!テメェ、ウチの美鈴を誑かすんじゃネェ!!」
「ッ!!……ハッ、嘘だコノヤロー」
萩原の怒声でハッとした。……忘れろ、今の事は。
「嘘だとテメェ——!!一回シバくぞ?!」
「そういう言葉が俺に一回でも勝ってから言ってみろ」
ニヒルに笑えば、「高村より悪者かよお前!」と言われてしまった。全く心外だな。