魑魅魍魎の菊
「くくくく、玖珂君?!そういうのは玖珂家の鏡子ちゃんたちに言いなよ!」
私は熱の帯びた顔で玖珂君を睨み、距離を取る。そして、何故か植木君の顔が引き攣っていて眉がひくひくしていた…。
大丈夫だ。私もまさかこんな言葉、こんなに麗しい美青年に言われるとは思わなかったぜ。
いくら冗談でも、心臓に悪い…。
「はぁ?鏡子に言っても仕様がないだろう」
「それかあの可愛い幼なじみに言いなさい!」
「由衣のことか?アイツはない」
何が無いんだ、贅沢もの!あんなに美少女を引っ掛けておいて、いけしゃあしゃと…。
アレ、何だろう。この怒りをどこにぶちまければ……。
「ていうか、植木君。部活良いの?」
「…………あぁ」
「そーだ、さっさと部活に行けって。俺らはこれから"一緒に帰る"」
その瞬間、植木は目くじらを立てながら正影を睨み。
「…高村、明日学校でな?」
そして菊花の口の中に入っていたストロベリー味のロリポップを奪って、口の中に入れたのだ!
しかも円満の笑みを零しながら「じゃあな!」と颯爽と走り去って行った——…
口をポカンと開け、突然の出来事に目眩すら感じた。えっ…何ですか、この少女漫画のノリは…。
私は掌で顔を覆って溜め息を吐いて玖珂君の自転車を引いて乗る。
「オイオイオイオイ……。テメェは盗賊か」
「……菊花さんは傷心のあまり、腹いせにこの地で百鬼夜行をやろうと思います」
颯爽とペダルを漕ぎだす菊花に一瞬呆気に取られながらも正影は走り出す。
「ゴラアァ!!!待ちやがれ!」
「もう!!玖珂君なんて大っ嫌い!!こんな幼気な少女をからかうだなんて!」
(バーカ、そんな真っ赤な顔で言われてもな…)
「——…逆にしか聞こえねぇんだよ」
懸命に走る正影と自転車に乗り真っ赤な顔をしている菊花の姿を見てクエスチョンマークを浮かべる加藤であった。
(待ちやがれ!!!)
(このままバイトに行ってやる!)
今日も夏の日差しが強いでございますね。