魑魅魍魎の菊
ふと、テーブルを見てみればバイクという乗り物の鍵を発見した。
「……リュウセイ、必要」
美鈴はゴツゴツしたバイクの鍵を持ち、暫く固まった状態でいたのだ。
『明日は行き着けのバーにバイク取りに行くから、帰り遅くなるからな』
龍星は大きい手で美鈴の頭を撫でながら笑っていった。
(…本当はすぐに家に帰りてぇけど)
つくづく美鈴を溺愛している龍星であった。
『…うん。解った』
そういえば…。この鍵を差さなければ、バイクという乗り物は動かないとリュウセイは言っていた。
乗ってみたいと言ったこともあったが、「まだ危ねぇし、ダメ」の一点張り。だとしてもだ、これが無ければ動かない……。
「——…学校に行こう」
きっと、リュウセイは困っている。これを持って行けば褒めてくれるよね…?
美鈴は笑いながら、耳に髪を掛けて菊花から買ってもらった麦わら帽子を被る。そしてリチャードが作ったという可愛らしいポシェットの中に鍵とお金を入れるのだ。
厳重にファスナーをしめて、ワンピースのスカートを整える。
美鈴が着ているワンピースは白地に裾に藍染めが施されているのだ。因みに制作したのは「ホムンクルス・リチャード」であり、彼女の教師でもある。
慣れた手付きでエレベーターに乗り、エントランスに出れば。管理人のおじさんが「どこかに行くのかい?」と聞かれたので「リュウセイのとこ」と口早に言い放って、走り出した。
「龍星くんも愛されてるな〜」
今日の空も青い。