魑魅魍魎の菊
「それに、正影様も良くして下さいます」
「正影が?」
おや、これは意外だな。苺を頬張っている姿でまるで小動物を彷彿させる。
「はい。美味しいお菓子を下さりますし、本当に…感謝をしています」
私はあの人に生かしてもらったんだ。
いつか、リュウセイにも菊花様にも、正影様にも、——スザク様にも恩返しをしたい。
だけど、私は「弱い妖怪」。誰かに守ってもらわなくては生きて行けないのだ。
力が欲しい、誰かを守る力が欲しい。心からそう欲せれば、自分の本当の姿を見て恐怖していたリュウセイが瞼の裏に…。
…私は知っている。
リュウセイは蛇柄を見るだけで顔色を悪くするのを。
だから、二度とリュウセイに"あの姿"を見せちゃいけない。怖がらせてはいけない。
そうは思っていても、"力"を欲してしまうんです。
(……難しい、です。菊花様)
学校に辿り着いたら、菊花様にご相談しよう。
「それじゃあ、そろそろ行くか」
「——はい」
美鈴はスザクと手を繋いで、学校まで歩き出す。
複雑な心とは裏腹に、空はとても青く——…
風が吹き荒れていました。
美鈴は帽子のつばを掴んで、飛んで行かないようにするのだ。