魑魅魍魎の菊
特権行使
「萩原君、入学した時から好きでした!」
先程の雷鳴のことをスルーすれば、今日も夏らしくてとても良い天気だ。風もそよそよと吹いており、女の子と龍星の髪を揺らす。
龍星を呼び出したのは、同じクラスで最近仲の良い女子だった。最近の女の子らしくて、化粧っけは無いが清純系で可愛らしいことだけは確かだ。
「——…ていうか、あの娘鏡子に似ていないか正影?」
「おぉっ…。誰かに似てると思ったら鏡子か」
スザクの疑問に正影は納得したように手を叩いた。菊花一行は綾崎を無事に帰したあとに体育館裏にやって来たのだ。
相変わらず加藤は雛観察(ストーカー)に繰り出ているらしい。
そして、またもや茂みの中に隠れて状況を伺っている。その中で眉を潜めているのは美鈴であった。面白くなさそうにスカートの裾をぎゅっと握るのだ。
「"鏡子"って?」
「あぁ…玖珂君の所の付喪神だよ。めちゃ可愛いんだけどねー少々棘が」
穂積君に私は思わず苦笑してしまうんだけど。私、めっちゃ嫌われているしな…。
「……いや…悪ィ…。俺、中島のことは"可愛い"と思うけど…」
(可愛い、ですって?)
口元が引き攣った美鈴は恨めしそうな視線で龍星を見据える。…確かにあの人、可愛いし…。
「…ていうか、萩原って清純系が好みなのか?」
「えっ?そうなの玖珂くん?」
「えぇー!何か、萩原君って派手目な女の子が好みと思っていたし…」
思わず美鈴は隣に座るスザクの着流しの裾をぎゅっと掴む。
(おやおや…。さすが蛇というだけあってか、)
可愛い嫉妬なのか、醜い嫉妬かはわからないが。どちらにせよ、瞳を潤ましている姿は可愛らしいな。
スザクはよしよしと麦わら帽子の上から頭を撫でて上げる。