魑魅魍魎の菊
「——…菊花様、殿方はあのような女性が好みなのでしょうか」
「えっ、それ私に聞く?」
ちょいちょいちょい、菊花さん女の子だからそんなの解らないよ…。
「まぁ印象は良いんじゃネェ?アイツ、ウチに来た時に鏡子をやたら可愛がっていたし」
『——ねぇ、田舎の蛇さん?』
——カチンッ…
その言葉を聞いた瞬間、美鈴の中で何かがキレたような気がした。
これはあれでございましょうか——…。テレビとらやらで見ました、《浮気》ってやつですか?そうなのですか?
青筋が立つのを覚えた美鈴は今日は何のために来たのか解らなくなった。——大好きなリュウセイが何処の馬の骨とも知れない女に取られそうだ。
——だが、相手は人間の女の子。
リュウセイはいつか私より早く死ぬだろう。人間なんて短い命、だけどそこから生まれる《命の光》は輝かしくて素晴らしいものだ。自分がリュウセイを咎める権利など持たないはずなのに…。
「中島のことは良い奴だとは思っているが…。悪ィ、俺は中島のことそういう風に見れない」
龍星がそう言えば、解っていたように中島という女子は悲しげに笑いながら龍星を見つめた。
「……萩原君って優しいのね。そうやって褒めてくれるから、諦めきれないよ」
と、その瞬間——…
龍星の左頬に小さな衝撃が走った。柔らかい、女の子特有の良い香りが弾ける。
「えっ…——」
「見えないなら、意識させて振り向かせてやるんだから!」
中島という少女はにこっと笑いながら、校門に向けて走り出した。見え隠れした夕焼けが空を崩しそうだった。
「——えっ…。まさかのちゅー?」
菊花の一言により、場は静かに弔い合戦に。
左頬を押さえ、顔を真っ赤にさせ口をぱくぱくさせる龍星は金魚のようだったらしい。