魑魅魍魎の菊
身長だって大きくありませんよ。…身長の高いリュウセイと釣り合わないのも知ってますよ。
……胸だって小ちゃいですよ。菊花様に「ぐらまなす」なお体でもありません。
こうやって、どんどん色んなことを挙げていく度に自尊心が傷つけられますがこの際、気にしませんよ。
(…リュウセイはあぁいう女の子が好きなんですよね!)
「……リュウ、セイの馬鹿ぁああ——!!」
「みみ、美鈴!なな、泣くなよ…」
全てを吐き出した美鈴は大声を上げながら泣いてしまった。おろおろする龍星は彼女を慕っている菊花を見れば——…
「〜〜♪」
(何口笛吹いとるんじゃぁぁああああ!!!)
こんな緊急事態に触らぬ神に祟り無しかよっ!!玖珂は玖珂で井上と何喰わぬ顔をしてやがるし…
大きな瞳から大粒の涙がぽろぽろと溢れ出て、血色の良い頬を濡らすのだ。
俺は目線を合わせるようにしゃがんで美鈴の頬に手を沿えて、目をじっと見つめた。あまりにも澄んだ、幼気な瞳だったのでこっちが引き込まれそうだ——…
(バカヤロー…、解りやすいな…)
こんな俺でも美鈴が構ってもらえなくて、嫉妬したことぐらい解る…。美鈴が信じられる人間なんて数少ない…
信頼する人間が横取りされる気持ちは"愛"を忘れかけている美鈴にとったら酷だ。そんなの解っていたはずなのにな…。
どうしてだろう。こんなに胸が温かくて、嬉しいんだ。
馬鹿だろう?お前が泣いているのに、その気持ちが嬉しいと思ってしまう俺は不謹慎だよな。
「……ゴメンな、美鈴。…俺が馬鹿だったよ、」
「……うぅ…ヒック…。リュウセイ、浮気…不倫…」
「そこまでぶっ飛んでねぇよ、ん、んぅ?」
テレビの影響が恐いと感じた瞬間だった。
そして、美鈴の涙を拭いながらバイクの鍵を持って来てくれた御礼を言う。