魑魅魍魎の菊
「あ、綾崎……」
顔を軽く引き攣らせた私はタックル(愛の咆哮)を避けながら、玖珂君の背後に隠れる。
「何で避けるのよ高村さん?!」
「——いやいやいや…綾崎が毎日私にタックルかまそうとするからよ…」
「何度言ったら解るの?!愛の咆哮つってんのよ!」
「俺を挟んで禁断の世界を繰り広げるんな」
あの蛇さんの事件から——…私はやけに綾崎に絡まれるようになったのだ。あまりにも最近愛が重過ぎて、尚かつ面倒なので「綾崎」と呼ぶようになった。
にしても…あまりにもビューティフルすぎるから、己の穢れが浮き彫りにされてしまう——!!!
「あ、綾崎先輩…どうしたんですか?そんな泣きそうな顔して…」
「井上君……私、果てしなく数学がヤバいのよ!!だから高村さんに助けを求めようと——!!」
「い、嫌だよ!私だって図書委員の仕事あるんだから!」
「おいおい別に良いじゃネェか高村」
よかねぇっよ!自分で精一杯なのに人の面倒まで見てられるかっつうの!
……綾崎はバッチリと化粧された顔でうるうるとした瞳を浮かべてくる…。面倒だ物凄く面倒だコノヤロー…。
とにかくあの日から、私達の存在がなんとなく「特異」なものと知った綾崎は別に言いふらすこともなく、追及すつこともなかった。
寧ろ、「物凄いオプション人間ね、貴方達」と物凄く羨ましそうにしたいたのを今でも覚えている。
その時の玖珂君と加藤さんの顔がとてもにこやかだったのは気のせいだろうか?まぁ、二人の間にも何かしらあったようだ。
図書館から溢れる本の香りとテスト期間特有の声、シャープペンが走る音は何故か心躍る。