魑魅魍魎の菊
(イライライライラ——…)
「ま、正影様!きょ、今日も麗しく素敵でございます!」
「ありがとう美鈴ちゃん。俺なんかより、美鈴ちゃんの方が可愛くて素敵だ」
正影は美鈴の頬に触れようとした瞬間。音速の如く萩原龍星は美鈴を抱え上げた。
「邪心の塊め!俺の美鈴には指一本触れさせん!」
「馬鹿かおめー」
「ま、まぁまぁ二人共落ち着いてよ…」
龍星に抱え上げられた美鈴はドキマギしながら、龍星の首に腕を回した。珍しく髪を結い上げ、可愛らしい橙色の浴衣を着ていた。全面的に高村菊花の協力ということは言うまでもない。
この《大槻神社》の縁日に集ったのは、正影、龍星、美鈴、穂積であった。元々行く約束をしていたので、こういう会話になってしまった。
龍星以外は浴衣を着用しており、本人曰く動きにくいだそうだ。
「所で高村先輩は?綾崎先輩辺りと来ていると思ったんだけど…」
穂積の言葉に正影はピクンっと反応した。あの女…肝心な時に連絡が取れネェとはどういうことだ。
「……ここで会ったら絶対に滅してやるぞ!つーか、萩原は会ったんだろ?何か聞いてネェのか」
「うっわ…冗談に聞こえネェ…」
縁日に来る人々も多くなったのか、先ほどより活気づいて来た。人々の笑顔に食べ物の香りがなんとも心地よい。
「俺だって知らねぇーよ。…美鈴、何か聞いたのか?」
(——鴉丸、決行は今夜だ)
(…確実に仕留めるわよ。
——大槻の神)
「いいえ、存じ上げません」
頭の中には妖艶に笑う「魑魅魍魎の主」が居た。