魑魅魍魎の菊
「…そ、そんな…。菊花先輩がそんなことをするはず、」
「——あるんだよ」
穂積の言葉を掻き消すように、正影は言い放つ。
あの女には前科があるのだ。いや——恐らく夥しい数の何かを犯しているはず。
その言葉を聞いた井上は泣きそうな顔をしながら、浴衣をきゅっと握っていた。
萩原も何処か納得したような顔をする。だが…何処か信じたくない気持ちがあるのだろう。
「皆さんそんなに深刻そうな顔をしないでおくれ。今日は縁日なんだ、たんと楽しみなさいよ」
「ヘラヘラしてんじゃねぇぇよ!!おまっ、狙われているんだから少しはシャキッとしやがれ!」
「だってー…一番カリカリしてるの蓬萊と玖珂の若頭だけだよ?せっかくの縁日を台無しにするんじゃないよ」
飄々と言いのけるこの神を一発…いや十発ぐらいぶん殴りたいのは何故だ。つーか、自分が滅されようとしてんだ少しは身構えろっつうんだよ。
「大槻様…玖珂の若頭の仰る通りです。少しは力を解放しても如何かと」
そうだ。大槻は「厄払い」の神である。
その力を解放すれば、如何わしい物の怪は直ぐに消えてしまう。
そんな力を持っているにしても、きっと「魑魅魍魎の主」なら策を練って来るに決まっている。——…アイツは人間にすら化けられるんだ。
何をするか解ったもんじゃねぇ。
正影は息を吐きながら、「青い蝶」のような神を朧げに見つめた。
とにかく、コイツを守って——…
"神狩り"の犯人を滅しなくてはならない。
(——どうすりゃ、良いんだよ)