魑魅魍魎の菊
**
御堂から颯爽と立ち去った魑魅魍魎の主は竹林の奥に居た。
傍らには、血で汚れた神様。
「——……何故、私は刺されたはずだ」
菊花に刺されたはずの大槻は怪我一つしていなかった。ただ、美しい青い着物と仮面は血で汚れていた。
周りには美しい蝶と蛍が飛び交っているわ。——美し過ぎて吐き気がする。
「幻術よ。実際私は大槻様のことを刺していないわ」
「な、何故っ——…」
「そんなこと言わないでよ。私だって無殺生なんてしたくないの」
「で、でわなぜ…」
質問ばっかりする神様ね。
でもま…しょうがないか。
パニックに陥っているのは当の本人だし、玖珂君達のことはスルーしておこう。
「菊花さん"悪者"だからー、形から入るタイプなのさー」
「はっ——?」
今、大槻様の表情が手に取って解るよ。まぁまぁ、そんな私の事情なんてどうでも良いでしょうよ。
私はそれより、この竹林のざわめきを堪能したいの。
「とにかく、大槻様はこういう事態に陥ることは理解してたでしょ?」
瞳をそっと閉じれば、無数の光を放つ虫共。
闇夜に集うのは蝶じゃないよ——
(蛾だよ、神様)
「運命を受け入れるのは感心するけど、抗ったら?」
——ちょーツマンない。
そうやって言う少女に背筋が凍る感覚を覚えた大槻だった。