魑魅魍魎の菊
「なな、っ…何物だ…」
大槻は震えた唇で言葉を紡いだ。
「私は魑魅魍魎の主だ」
——何故、妖怪が?!
この地には、関係の無い外界の物の怪は立ち入れないはずだ。玖珂家の当主の力が衰えていることなど有り得ない。
だったら、何故——…
「…どうやって、この地に足を踏み入れた…」
「それは疑問に思いますよねー。私だって、苦労しましたもん。あまりにも結界が強いし、玖珂の力が邪魔するし」
だけどね。狐の面の女は懐から、見覚えのある「髪の束」を取り出したのだ。
それを見た途端、私は後ずさってしまった。あまりにも恐怖が大きく、体を蝕む。
「ふふっ、これ。縁結びの神様・美納(みのう)様の髪の毛。物凄く綺麗だったけど、あんまり泣きじゃくるから正直鬱陶しかったわね。ていうか、神様が命乞いとか超ウケた!!」
(——だから、滅しちゃった♪)
消滅することは覚悟していた。消え行くだろうと頭では割り切っていた。
だが、この娘が恐ろしく仕方無かった。残虐で非道という言葉はこの女子のためにあるのではないか。
きっと素顔を拝んでいたら、私は失神してたの違いない。その狂乱じみた顔など見たくない。