魑魅魍魎の菊
「——…魔物なら好都合だ」
瑠璃丸は色みを持たない瞳で「女」を見つめる。貴族の娘のような着物を着衣し、青空のような瞳は何故か恐ろしくなかった。
寧ろ——自分はいっそ魔道に堕ちれるならば、それで良い。
「何か調子狂っちゃうなぁ。一応物の怪だけど、ここまで無反応だとこっちが困るわ」
柔らかい風が吹いて、二人の髪を揺らす。
——そしてこの女こそ、この社の主「大槻」であった。
彼女は瑠璃丸に柔らかく笑いながら、彼の目の前にしゃがんだ。
「……貴方は"瑠璃丸"ね」
「——そうだ」
「…私は"大槻"よ」
やっぱり…と呟く瑠璃丸に大槻は笑ったのだ。この男はあまりにも死を見つめし過ぎたせいで《見えないなにか》を見える能力を持ってしまったようだ。
「瑠璃丸、仕事はしなくて良いの?」
「………」
何も答えない瑠璃丸。漂う空気は不穏を含んでいた。
「——取りあえず、お茶でも飲む?」
やつれた青年の腕を引っ張る女はやけに滑稽な図だが、この男をこのままにしてはおけない。ここで放っておいたらきっと、この男は魔道に引きずり込まれてしまう。
(——倒れてしまうわ)
放っておけない理由がこの地の者というわけではない、不純な理由を持つ「神」は自分の煩悩さに少しだけ苦笑した。