魑魅魍魎の菊
なすがままになる瑠璃丸は初めてこの御堂に足を踏み入れた。あまりにも見た目に反して質素だったので驚いたものだ。
目の前に坐る「女」こと——大槻はにこにこと笑いながら私にお茶を差し出す。なんとも滑稽な図だよ。
神様が人間なんぞにお茶を差し出しているんだ。
「私は質素なものが良いのよ。それよりお茶は美味しい?」
「——えぇ、こんなに美味しいお茶を飲んだのは初めてです」
私はただの庶民。大槻のような神の着物を見るのだって初めてだった。
ただの小作人で少々容姿が良いだけであって、金になるわけでもない。
(——厄払い、か)
途端に瑠璃丸の表情が険しいものになった。
何故私の家族は病に倒れたのか、何故——私の…
その表情に気がついた大槻はお茶を飲む手を休めて、口を開いた。
「行く所が無ければ、ここで暮らすか?」
(ねぇ、植木君。神様は人間に恋をしていたんだって)
大切な思い出も少し置いて行こう。思い出に溺れていても、貴女のことを忘れられないんですよ。