魑魅魍魎の菊
——瑠璃丸は声にならない声で叫んだ。彼の胸は陰陽師・玖珂義影の刀で胸を一差しされた。
「 愁暗(しゅうあん) 」
「——ヒッヒッヒッヒ——ケタケタケタケタ——…」
愁暗と呼ばれた醜い物の怪はその体を這わしながら、瑠璃丸の中に溶け込むように入って行った。
それを見届ける義影の横にすっと——大槻が崩れるように座り込んだ。美しい青い瞳は揺れて揺れて、今にも零れ落ちそうだったのだ。
「——瑠璃丸、ごめんなさい。ごめんなさい——うっ…本当にごめんなさい、」
既に美しい青年瑠璃丸は瑠璃丸ではなくなった。その手を握り涙を零す美しい神とは、なんとも——風情があるでわないか。義影は盲いているが、それぐらいは解る。
そして——大槻に頼まれていた宝玉を渡したのだ。
それは、黄金に光り輝く「神の命の根源」と言われるらしい。その構造は人間の理解を超えるもので到底説明出来ないものという。
「——義影殿…。私は瑠璃丸を愛していました」
この異様な空間にはそぐわない発言。だが、大槻はそのまま静かに語り出した。
「…大槻殿、」
「…瑠璃丸はね、美しい男でして…気配りの出来て何でも出来ちゃうのです。お恥ずかしながら私も村娘のように瑠璃丸に見初められた」
ただ、見ているだけで幸せだった。そうだったのに——悲しいことに、瑠璃丸の家は「厄」に取り憑かれていたのだ。
…それも一家規模ではない厄。このままでは村おろか町をも巻き込む勢い…神として、私は命令を下してしまった。
(——あそこの家を崩せ、だが瑠璃丸という男だけは生かしなさい)
私は汚い。なんという恐ろしいことをしたのかと今でも思う——だが、拠り所のなくなった瑠璃丸が私に頼るのは薄々解っていたのです。
——見ているだけでは駄目だった。どうしても、彼が欲しかった。この気持ちがはちきれそうだったのだ。