魑魅魍魎の菊
「でもごめんなさいね…蛇塚から、少しとはいえ…離させてしまったわ」
「良い良い。お前さんのお陰で蛇五右衛門を助けてもらったからな」
——悲しみから抜け出せない。約束、守れなかったね…
「わしは菊花に助けてもらったんじゃ。じゃから恩返しじゃよ、わしが役に立てるなら全面協力するつもりだ」
「蛇骨婆…」
「何て慈悲深いんだおばあちゃーん!ドジで間抜けで地味なキッカを助けるなんてー!」
「シバくぞゴラァ」
しゃしゃる吸血鬼にニンニクを差し出そうと思ったが、現代の吸血鬼にはどうやら利かないらしいからムカつく。
「否定しないじゃんっ?」
「グッ…!否定出来ない自分が居る!」
「ライアン、後で闇討ちに遭うぞ?」
小さくだが、鴉丸の「背後を気をつけろ」という声が聞こえたような気がしたライアンだった。
そして、小学校の前を差し掛かった時——
「——あっ…」
目の前が炎に焼かれるような、チカチカとする感覚に襲われ。耳からはライアンの阿呆な声や天邪鬼達の笛の音が聞こえなくなった。
「——しまったっ!!」
「今頃遅いぞ。
——百鬼夜行の"頭"とやら」
不意に耳に聞こえて来たのは、聞いた事のない男の声だった。目の前は小学校で風景が変わらないのに…
変わらないのに——百鬼夜行が消えていたのだ。
「やっぱり、何か仕掛けていたのね…」
小さく呟いた言葉に、男が笑ったような気がした。