魑魅魍魎の菊
龍星は叫びながら、恐ろしいと思いながらも菊花を見つめた。蛇なんて嫌いだ。
だけど——こいつと向き合って勝たなきゃ、本当の意味で美鈴を失ってしまうんだ。
「——やっと面白くなってきた。これで"大槻"を完璧に滅することが出来る」
ペロリと舌を舐めた菊花を見た瞬間、大槻の中で何かが切れてしまった。
体は縛り上げられ——こんな狂気じみた殺気の中で自分がどうこうできるとは到底思えないが——
(私は"厄払いの神"大槻だ!)
大槻の青い瞳が光る——
「私達は貴様の娯楽のために生きているのでわない!!」
「——何、まだ"抗えた"んだ」
「菊花様になんて口を!」
鴉丸は錫杖で大槻を殴ったのだ。——拘束が解かれるが、すぐに菊花の長い髪が捕らえるのだ。
その瞳には「無」しかなかった。——理想とか色恋沙汰とかには興味無いの。
(ぐっ——私はこんなに非力なのか!)
その瞬間。大槻の視界には青い蝶と白い蛇が映るのだ——
(——瑠璃丸、私の手を掴んで——)
瑠璃丸は幻だと信じたかったのだ。突如、アオスジアゲハの群れが一気に魑魅魍魎に襲いかかるのだ。
そして——瑠璃丸の視界は真っ暗になり、胸元の太陽の印が光り出した。
『——私は、悲劇の女にはなるのはやっぱり嫌だわ』
目の前には私と一緒の青い瞳と着物の愛しい貴女がいたのだ。何故か何百年も経っても一度も忘れる事がなかった日だまりのような笑みを浮かべていた。