魑魅魍魎の菊
菊花は腰に帯刀していた刀を抜刀し、
——自分の左腕を刺したのだ。
(もう一人で膝なんて抱えない、)
(この痛みが全てを解放する術に、)
白い腕当てが鮮やかな血で染まるのだ。——その男、《朱雀門の鬼・スザク》は軽く息を潜めた。
その躊躇の無い行動に軽く感服しつつも、ただ者ではないことを再認識する。
「その程度じゃ、俺の"世界"から抜けられない」
「ちょっと?!今の私の行動、自滅の一歩を歩み出したんだけど?!どーしてくれるのよ!格好良い所見せようとしたのが仇じゃん!」
「俺達の目的はアンタの首を捕ることだ。別に勝手に自滅しても構わんぞ?」
「ひ、酷ッ!!そして、声しか聞こえないし!ていうか、姿を現しなさいよ!」
菊花が叫ぶと、目の前の小学校の門の上にスザクが現れたのだ。呆れた顔をしながら自分の角を軽く掻く。
(……どうして、"人間の女"がこんな所に)
正影の結界で人間が入ったことはない、そして——
何故、百鬼夜行の頭が「人間」なのだ。軽く冷や汗にも似た汗をかいたスザクは軽く息を飲む。
「えっと、取りあえず。さっきの百鬼夜行の頭……だと思う高村ッス」
「だと思う?」
眉を寄せるスザクに菊花は苦笑して、「そこん所微妙なんで」と言って頭を軽く下げた。
(何故……頭と呼ばれる者が頭を下げるのだ)
あまりにも謙虚な姿に自分の主人を重ね見たスザク。主人がいかに傍若無人だということがよく解った瞬間だった。
「で、そこの男前な鬼のお兄さんは?」
うん、スンマセン。私面食いです、イケメンさん大好きですよ。悪いですか?
目の保養ですよ。良いじゃないですか!
私地味なんだから、綺麗な容姿をしている人を全面的に応援する乙女なんですから。