魑魅魍魎の菊
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あれから——何もない日々が続いてしまっている。唯一変わってしまったのは、私の意識ぐらいだろうか。
大槻はよく晴れた空を見上げ、神社の階段に佇んでいるだけだった。白い蛇の蓬莱は蛇の姿で私の腕に巻き付いていた。
(——あれは幻だったのであろうか)
縁日に現れた"大槻様"は何だったのか。自問自答を繰り返す日々が続く——玖珂家の当主である市太郎殿に相談しに行きたいが、"あの縁日"の日を境に玖珂の若頭や金髪の青年、精霊を使う少年が恐ろしい程落ち込んでいるようにも見えた。
金髪の青年など…話を聞く限りでは、荒ぶれているらしい。
(魑魅魍魎の主、か……)
物思いに耽っていると、夏の緑色の風がふわりと吹いたのだった。
「——こんにちわ、"瑠璃丸"」
「「っ??!!」
ふと耳に触れた声は何百年も忘れることがなかった"女の声"だった。
だが、階段を上って来たのは——滅されたはずの「魑魅魍魎の主」の姿があった。
驚きのあまり声が出ず、蓬莱も「しゃーしゃー」と鳴いているだけ。
「な、なっ——な、なぜっ…」
「落ち着いて"瑠璃丸"。私は今、この方の体を借りているの」
そして——あの女の瞳は黒いはずなのに、大槻様の青い瞳をしていたのだった。
"高村菊花"と名乗る女の表情も狂乱じみたものではなくて、穏やかな慈愛に満ちた表情になっていた。
それはもう——夏の青空がよく似合っていたのだから困る。