魑魅魍魎の菊
「おお、大槻様っ——」
狼狽えた私はなんて情けないのであろうか。まるで夢のようにふわふわとするのだ。
「そう何度も私の名前を呼ばなくとも、私はここに居ます」
不可思議な力が今、私達の間を取り巻いている。これは奇跡なのであろうか。そう思わずにはいられない。
姿は違えど、確かにこの方は「大槻」様である。
「なぜっ——この女は滅されたはず、」
「私も詳しくは解らないけれど——少しの間だけなら、瑠璃丸と話すことを許されたの」
(誰の権限で?)
そんな問いは今の私には浮かんで来なかった。何にせよ、愛しい貴女が形を変えてでも私に会いに来てくれたことが嬉しいのです。
過ちを犯した私を——
「瑠璃丸——また美しくなっちゃったわね」
そうやって少女のようにはにかむから、本当に嬉しそうな瞳をするから——何だか今にも泣いてしまいそうだ。
「そ、そんな…ことは」
「もう謙虚ねぇ〜。でもさ、私の"青い瞳"を受け継いで、私の体の一部があるみたいでね…ちょっと、いやかなり嬉しいの」
そうやって、少女のようにはにかむから。
瑠璃丸は思わず、菊花——基大槻を抱きしめた。一段下に居る彼女は抱きやすくて、薄幸そうな女は華奢な体をしていた。"形"は違えど、この人は——
(私が何百年も思い続けた女性なのだ)
「——大槻様。貴女、相当歪んでますよ。何ですか、"嫌な記憶"でも私の中に貴女が残っているならそれで良いだなんて……本当、馬鹿ですよ」
瑠璃丸の背中に大槻の腕が絡まる。
(——あぁ、逞しくなったわね)