魑魅魍魎の菊



「……だって、神が人間に恋するなんて…前代未聞よ」

「良いんです。私は何百年と考え、悩みました——確かに私は大槻様を憎んでいました」


その言葉を聞いて、大槻の喉がひゅうっと鳴った。


「ですが……私は貴女に生かされた。ただ純粋に自然の摂理に沿って、私は生きようと決めました。大槻様の分まで」

「——…」



人間として生まれた私にとっては最初の百年の時点で死んでしまいたかった。もう村には私が知っている者が生きていなかったからだ。私を知る人間が消えてしまったからだ。


人から忘れられる——記憶から抹消される、それが本当の死だと悟った日。それでも私の傍にはいつも心優しい蓬莱が居てくれた。


——そしてずっとずっと長い間考え続けた。思い続けた「大槻様」のことを。



どんな形であれ気付いてしまったのだ。私は——








「最初から貴女に恋していたのです」

「る、り…まる?」



青い瞳が揺れる。黒い髪が揺れる。
だけれど、今は「大槻」にしか見えないのだ。美しい私の神。私は貴女が居なければ生きている、存在している意味がないんですよ。



「——大槻様、忘れないで。瑠璃丸は死にました。ですが、貴女の中で生き続けている。貴女が私の前に現れるなら、私は大槻様だけの"瑠璃丸"になれます」



瑠璃丸は大槻の頬に手を添えると、大槻の青い瞳からはらりと涙が零れて来る。自分が醜いと責め続け、蝶の姿になって——瑠璃丸に気付かれずに見守って来たこの数百年。


やっと——やっと、思いが報われたような気がするのだ。



いくら、体を借りようとも。姿が変わろうとも、私は——



私は——



 
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